在宅血液透析を変革へ ─ フィジオロガスがシリーズA追加調達で挑むQOL革命【約4.4億円累計】
資金調達の概要
フィジオロガス・テクノロジーズ株式会社(神奈川県相模原市、代表取締役宮脇一嘉)は2026年1月6日、シリーズAラウンドのセカンドクローズを完了したと発表しました。新規投資家として京都大学イノベーションキャピタル(京大iCAP)ならびにちば興銀キャピタルパートナーズが参加し、同社が開発する在宅血液透析装置の社会実装を後押しします。今回の増資日は2025年12月末で、詳細は公式プレスリリースをご覧ください。
同社は2021年シード、2025年夏のプレシリーズAと段階的に資金を集めてきましたが、今回の調達により累計調達額は公表済み分で約4.4億円に達したとみられます(2025年8月19日の3億円調達を含む)。ラウンド区分は以下のとおりです。
出資者の狙いとコメント
リード投資家の京大iCAPは大学発ディープテック支援に強みを持ち、「臨床課題と工学的イノベーションを橋渡しする好例」と評価。地方銀行系VCのちば興銀キャピタルパートナーズは「地域医療の負荷軽減と患者QOL向上に資するビジネスモデル」として参画しました。両社とも装置開発後のスケールアップ工程や販路構築で協力する方針を示しています。
既存株主との役割分担も整理されており、装置の量産設計フェーズでは機械設計の量産知見、高分子材料の生体適合性評価など、出資各社が専門領域を活かし共同開発を進める体制です。大学VC/地域金融/エンジェルが役割を住み分け「ファイナンス+伴走支援」を徹底するモデルが浮き彫りになりました。
在宅血液透析市場の現状と課題
日本透析医学会の統計によれば、2023年末時点で維持透析患者数は約34.3万人。そのうち在宅血液透析(HHD)を受ける患者は約800人にとどまり、普及率は0.2%未満と極めて低水準です。通院透析は週3回・1回4時間という時間的・身体的負荷が大きく、患者・家族の生活と就労を阻害する要因となっています。加えて医療機関側も看護師・臨床工学技士のリソース確保が難しく、外来透析レーン逼迫が顕在化しています。プレスリリースでも同様の課題が指摘されています。
普及が進まない最大要因は、在宅向けに設計された専用装置が国内には存在せず、院内用の大型装置を改造して使用せざるを得ない点にあります。給排水配管工事や水質管理設備が患者宅に必要となり、導入コスト・操作難易度が高止まりしているのが現状です。
フィジオロガスの技術的特徴
同社装置の中核は、北里大学・小久保謙一准教授らの研究成果を応用した「尿毒素吸着カートリッジによる透析液再循環技術」。循環させた透析液をカートリッジで清浄化することで大量の水を使わずに済み、配管工事も不要になります。また、デジタルセンサと閉ループ制御によって血流量・除水量・透析液温度をリアルタイム監視し、安全停止系を内蔵。装置本体は幅45cm×奥行50cm×高さ80cm・重量45kgと、家庭用オーブン程度の設置スペースで済む設計です。
消耗品もオールインワンカセット化されており、血液回路やダイアライザ、吸着カートリッジが一体で交換できるため、看護師の訪問頻度と交換作業時間を最小化します。これにより患者自身がボタン操作だけで治療を開始でき、遠隔モニタリングで医療従事者が状態を把握できる仕組みが整います。
資金の使途と開発ロードマップ
今回調達した資金は、以下4項目に重点配分されます。
- 装置・消耗品の最終量産設計
- 電気的安全性・EMC・生物学的安全性など非臨床試験
- 医療機器製造販売承認申請に向けた法規制対応
- 治験実施に備えた臨床パートナー施設との連携強化
2026年末までに非臨床評価を完了し、2027年前半の治験開始、2028年の国内上市を目標に掲げています。ロードマップは薬機法の第三種管理医療機器区分を想定し、治験期間を18か月、承認審査を12か月見込む計画です。
患者・医療現場へのインパクト
在宅血液透析は「頻回かつ短時間」の治療が可能なため、血圧安定、リン・カリウム管理改善、貧血抑制など予後指標が向上すると報告されています。さらに通院拘束が減り、就労継続率や介護者負担軽減にもつながります。フィジオロガス装置が市場投入されれば、導入障壁が下がり在宅透析人口が拡大。透析ベッド不足に悩む都市部クリニックにとっても外来枠ひっ迫解消という経営メリットがあります。
一方、装置レンタル費や消耗品コスト、在宅支援診療報酬など制度面の議論は継続課題です。同社は保険収載シミュレーションを進めつつ、自治体とパイロット事業を検討しており、包括的な社会実装モデルを提案する構えです。
今後の展望と編集部所感
ディープテック医療機器スタートアップにとって、量産設計フェーズは資金需要が顕著に跳ね上がる「死の谷」です。今回のラウンドで公的VCと地域金融が組んだ点は示唆に富みます。機器単体の性能だけでなく、訪問看護・遠隔モニタリング・データプラットフォームを組み合わせた「サービス型収益モデル」を描けるかが次の焦点です。
市場規模34万人のうちわずか800人という低い普及率は、裏を返せば巨大なホワイトスペース。装置価格と保険制度の最適解を提示できれば、透析医療のパラダイムシフトを起こす可能性があります。編集部としては、2026年1月末にシンガポールで開催されるInnoVision2026でのプロトタイプ展示に注目し、追って詳細レポートをお届けする予定です。
石井英治
資金調達アドバイザーとして企業・個人の資金繰りのサポートを行う。モットーは「資金調達は安全で信頼できるサービスを選べ」。業界歴25年。