42.99億円調達でクリアルが加速──SBI・JALなどと資本業務提携、ST開発も視野に中期計画を前倒しへ
クリアルが42.99億円を調達――第三者割当増資の全体像
不動産クラウドファンディング「CREAL(クリアル)」を展開するクリアル株式会社(東証グロース:2998)は、2025年12月5日に開催した取締役会で、第三者割当による新株式発行を決議しました。普通株式5,756,200株を1株あたり747円で発行し、総額4,299,881,400円(約42.99億円)を調達します。払込期日は12月23日。調達後の株主構成や業務提携の詳細は、同日公表のIR資料に盛り込まれています。公式IR「第三者割当による新株式の発行等のお知らせ」
今回の増資は、SBIホールディングスやJIC系ファンド、日本航空など5社を割当予定先に迎え、資本と業務の両面で提携を深める点が特徴です。クリアルは2025年5月に発表した中期経営計画『Game Changer 2030』で、2030年3月期までに年間GMV(ファンド組成額)2,500億円を掲げており、資金・人的ネットワークを一気に強化する狙いがあります。
発行条件と株主構成の変化
発行株式数は既存発行済み株式数(※増資前)の約10%に相当します。内訳は、SBIホールディングス1,606,400株、JIC VGIオポチュニティファンド1号2,677,400株、中央日本土地建物669,300株、きらぼしキャピタル東京Sparkle投資事業有限責任組合669,300株、日本航空133,800株。調達完了後、クリアルはSBIホールディングスの持分法適用会社となる予定で、経営面での連携が一段と進む見込みです。同IR資料
資金使途――DX・AI・ST開発へ
調達資金は主に以下に投下されます。
- 不動産ST(セキュリティ・トークン)を含む「CREAL ST(仮称)」のシステム開発・事業化
- DX・AIを活用した営業・マーケティング基盤強化
- ホテル運営やレジデンス管理など運用機能の内製化、人材採用・教育
- 事業拡大に伴う運転資金および子会社再編費用等
ST開発は、不動産を裏付けとした小口デジタル証券の発行を視野に入れたもので、中期計画で掲げる「マルチアセット×マルチプロダクト戦略」の中核に位置付けられています。補足説明資料
提携5社の顔ぶれと協業シナジー
SBIホールディングス――金融商品SPA化を後押し
SBIグループとは2023年1月の初回出資以来、送客連携や決済インフラを中心に協業を進めてきました。今回の追加出資で同社の議決権比率は20%超へ上昇予定。クリアルはSBI証券・住信SBIネット銀行などとの提携を深め、投資家基盤の拡大とSTのセカンダリーマーケット開設を視野に入れます。IR資料
JIC VGIファンド――政府系VCが後押しする中長期成長
産業革新投資機構(JIC)傘下のVCファンドが最大株主となる点も注目されます。同ファンドはDX人材育成や海外展開に強みを持つ支援メニューを有し、クリアルの海外投資家向けプロダクト拡充を後押しするとみられます。
中央日本土地建物・日本航空など――垂直統合と顧客接点拡大
中央日本土地建物とは不動産情報の相互提供で合意。開発・運営物件をCREALに優先的に供給する体制を構築し、ホテル案件などの大型ファンド組成を加速させます。一方、日本航空とは約4,000万人のJMB会員を対象にマイル連携を展開。投資申込でマイルを付与し、ホテル宿泊需要とも相互送客する計画です。FISCO解説記事
オンライン不動産投資プラットフォームへの影響
GMV成長加速と事業ポートフォリオ
クリアルは22年度~25年度の年平均GMV成長率約60%を維持していますが、不特法3号4号スキームやST商品の投入で「単月300億円規模」の大型ファンドを組成できる体制を目指しています。ホテル・レジデンスの自社運営比率を高めることで、ファンドの利回り改善とEXIT多様化を図り、個人投資家のリピート率向上につなげる戦略です。会社サイト
2030年3月期GMV2,500億円目標との整合
中期計画では、オンラインマーケットの国内シェア30%超を獲得し、GMV2,500億円(25/3期実績の約10倍)を目標としています。今回の資金でST関連システムとマーケティングコストを前倒し計上できるため、26/3期以降のGMV伸長率を年率+70%程度まで押し上げる計算です。DX・AI投資は固定費増ですが、クラウド基盤統合により長期的な粗利率改善も見込まれます。
投資家が注視すべきポイント
持分法適用会社化とガバナンス
SBIホールディングスの持分法適用会社となることで、クリアルは経営の独立性とガバナンス体制を両立させる必要があります。取締役派遣や重要事項の事前協議条項が設けられる見通しで、迅速な意思決定とシナジー創出のバランスが課題です。
希薄化率とROE・EPS見通し
今回の増資による希薄化率は約9.5%。一方で、資金投入によるGMV拡大が計画通り進めばROE・EPSともに26/3期以降に反転する試算が示されています。投資家は、①ST事業のローンチ時期、②提携先からの案件供給量、③マーケティング費用対効果の3点をモニタリングするとよいでしょう。みんかぶ記事
まとめ――「金融商品SPA」への転換点
42.99億円の資金調達と5社との資本業務提携は、クリアルが「不動産投資を変え、社会を変える」ミッションを実現するうえで大きなマイルストーンとなります。STを軸としたデジタル証券化、ホテル・開発案件の取扱拡大、そしてSBIグループのリテール力を取り込むことで、プラットフォーム型ビジネスから「金融商品SPA」への進化を加速させる構図です。今後は、調達資金の投下スピードと成果指標(GMV・KPI)の開示姿勢が、投資家からの評価を左右するでしょう。
石井英治
資金調達アドバイザーとして企業・個人の資金繰りのサポートを行う。モットーは「資金調達は安全で信頼できるサービスを選べ」。業界歴25年。