AI設備投資ブームで米転換社債が急増―CoreWeave・IRENなど大型調達続々、2026年は発行最高更新へ
米国の資金調達トレンドに異変 AI熱が「転換社債ブーム」を呼び込む
2026年に入り、米企業による転換社債(CB)発行が加速しています。ロイターの集計によると、1〜4月の米国CB発行額は340億ドル(約4.8兆円)で前年同期比2倍超。このうち約50%がAI関連案件で占められました。AIインフラの巨額な設備投資ニーズと高金利環境が重なり、「低クーポンで株式オプションを付与できるCB」が最適解として再評価されている格好です。Reuters
銀行調査部門も強気です。バンク・オブ・アメリカは「2026年通年のCB発行額は過去最高だった2025年(1,200億ドル超)を更新するペース」と予測。バークレイズは「AIブームは2027年まで少なくとも2〜3年続く」と指摘し、投資家のボラティリティ需要が当面根強いとの見方を示しています。
発行額は4か月で3.4兆円、AI関連が半分
ロイター記事によれば、AI分野でのCB発行実績には「Oracle 50億ドル(強制転換優先株を含む)」「CoreWeave 40億ドル」「IREN 26億ドル」など大型案件が並びます。発行ラッシュは2020〜2021年に行ったCBのリファイナンス需要とも重なり、市場規模そのものが拡大。2024年には通年で1,058億ドルに到達しており、2026年は早くもその更新が視野に入りました。Calamos Investments
- 2026年1〜4月:340億ドル(半分がAI関連)
- 2025年通年:1,200億ドル(史上最高)
- 2024年通年:1,058億ドル(過去7番目の水準)
代表的ディール① CoreWeave 35億ドルCB(2026年4月)
AIクラウド専業のCoreWeaveは4月10日、1.75%・2032年満期の転換社債を当初30億ドルから35億ドルへ増額して価格決定。13日間の追加発行オプションを含め、最大40億ドル規模となる可能性があります。株価に30%のプレミアムを乗せた転換価格119.60ドルに設定し、希薄化リスクを抑えました。資金はデータセンター拡張とキャップトコール(転換価値のヘッジ)に充当されます。CoreWeave 公式リリース
同社は2025年にも17.5億ドルのCBを発行済みで、AI需要の爆発に伴いレバレッジを高めつつ資本コストを抑制する戦略を継続しています。
代表的ディール② IREN 30億ドルCB(2026年5月)
元ビットコインマイナーからAIデータセンターへ転身したIREN(NASDAQ: IREN)は、5月14日に1.00%・2033年満期のCB発行を完了。26億ドルの当初募集に400百万ドルのグリーンシューを加え、総額30億ドル・ネット調達額29.6億ドルを確保しました。転換プレミアムは32.5%、株価100%上昇までヘッジ可能なキャップトコールを同時締結しています。IREN 公式リリース
IRENは北米と欧州でGPUクラスタを展開し、再エネ由来の電力契約を武器に「グリーンAIクラウド」を標榜。CB調達はOklahoma新設キャンパス(1.6GW級)などの設備投資に充当されます。
代表的ディール③ Tempus AI 4億ドルゼロクーポンCB(2026年5月)
医療AIベンチャーTempus AIは5月8日、0.00%・2032年満期のゼロクーポンCBを400百万ドルで価格決定(後に460百万ドルへ増額)。転換プレミアムは40%で、利払い負担ゼロと株主希薄化のバランスを取る典型例となりました。Tempus 公式リリース
- 調達目的:研究開発投資と既存シニアローンの繰上げ返済
- 特徴:クレジット負担を抑え、株価上昇時のみ希薄化が発生
Oracleの強気資本政策と「強制転換優先株」
Oracleは2月、AIクラウド拡張費用を賄うため、6.5%配当・25%プレミアム付きのMandatory Convertible Preferred(MCP)で50億ドルを調達。CBではなく優先株の形態ですが、株式転換オプションを付与する点で実質的にエクイティリンク債と同様です。IFR
同社は2026年中に最大500億ドルの追加資金を調達すると表明しており(うち約半分をエクイティリンク証券)、AI向け設備投資の巨額さを物語ります。
投資家サイドの視点 ― 低クーポン×ボラティリティで妙味
CB市場の買い手はヘッジファンドと長期アセットマネジャーが中心。CBには「株価上昇時の転換益」と「下落時の債券保護」が共存するため、AI関連の高ボラ銘柄ほどオプション価値が高まり、発行体は低い利率で資金を調達できます。バークレイズの分析では、AIセクターの平均クーポンは1.2%と高利回り社債(約6%)に比べ400〜500bpの節約効果が出ています。
なぜ転換社債なのか? 金利高と希薄化回避の二刀流
- 金利負担の抑制:従来のハイイールド債より3〜5%低いクーポンで発行可能。
- 株式希薄化の先送り:プレミアムを25〜40%に設定することで株価上昇が実現した場合のみ転換。
- 市場需要との合致:AI銘柄のボラティリティが高く、投資家はオプション価値を享受できる。
結果として発行体・投資家の双方にメリットが生じ、市場規模拡大につながっています。
ハイリスク銘柄の増加と今後の警戒ポイント
一方で、AI熱に便乗した赤字企業の参入も目立ちます。例えば2025年上場のWhiteFiberは、営業赤字のまま2.3億ドルCBを発行し、株価は60%上昇したものの財務健全性は改善していません。今後、金利がさらに上昇すれば転換が進まず、満期一括返済リスクが顕在化する可能性があります。投資家はクレジットプロファイルと希薄化シナリオを慎重に見極める必要があります。
まとめ:AI資本支出の本格化で「転換社債」は常態化へ
AI関連インフラの建設ラッシュは始まったばかりで、データセンター、電力網、半導体設備など巨額の資本が必要です。2026年の発行ペースが続けば、CBは年間1,400億ドル規模に達する試算も現実味を帯びます。金利高でも希薄化を先送りできるCBは、AI企業にとって「第1選択肢」の地位を固めつつあり、投資家にとってもリスク・リターンの妙味が光ります。
石井英治
資金調達アドバイザーとして企業・個人の資金繰りのサポートを行う。モットーは「資金調達は安全で信頼できるサービスを選べ」。業界歴25年。