NO MOREが1.2億円をデット調達──没入型エンタメの開発加速と海外進出を狙う最新資金戦略
資金調達の概要――1.2億円をデットで確保した狙い
株式会社NO MORE(東京都渋谷区、代表:佐田晋一郎)は2025年12月9日、りそな銀行と日本政策金融公庫からの融資枠により総額1.2億円のデットファイナンスを実施したと発表しました。創業2期目での大型調達は、イマーシブ(没入型)エンターテインメントの開発体制を本格的に拡張する勝負の一手です。株式の希薄化を抑えつつ開発スピードを落とさない資金調達手段として、銀行融資を活用した同社の判断には、安定したキャッシュフローと実績への自信が透けて見えます。詳細は公式リリースPR TIMESで公開されています。
NO MOREとは?──“ストーリー体験”を武器に急成長
NO MOREは2024年2月設立のスタートアップです。「テクノロジーで、人々の記憶に残るストーリー体験を発明する」を掲げ、AR/プロジェクションマッピング/リアル空間演出を組み合わせた体験型コンテンツを企画・制作しています。国内外でIPホルダーや商業施設と協業しながら、“作品”ではなく“体験”そのものを商品化するビジネスモデルを構築。創業わずか2年弱で複数の常設・期間限定アトラクションをローンチし、業界内で存在感を高めています。会社情報はコーポレートサイトNO MORE公式でも確認できます。
特筆すべきは、イベント単位での収益とIPコラボによるロイヤリティ収入を組み合わせ、短期回収と長期的ブランド価値の両立を図っている点です。この収益構造が、銀行からの融資審査において与信材料になったとみられます。
資金使途──開発・採用・海外展開に集中投下
今回調達した1.2億円は、①体験型エンタメの開発チーム強化、②営業・事業開発人材の採用、③海外市場での実店舗開発──の3領域に重点投資されます。特に海外展開では、東南アジアの大型商業施設向け常設アトラクションや、中東リゾート地での期間限定イベント案件がすでに商談フェーズに入っており、デポジットや機材輸送費など先行コストを速やかに手当てする必要があったといいます。
- 開発費:最新プロジェクション機材・インタラクティブセンサー導入
- 採用費:体験設計ディレクター/ソフトウェアエンジニア/海外事業PM
- 海外向けPoC:現地オペレーション構築と多言語マニュアル整備
これらの投資によって、国内外で“NO MORE品質”の体験を同時多発的に展開できる体制を作り上げる計画です。
金融機関が融資を決めた背景──収益モデルと市場拡大
りそな銀行、日本政策金融公庫ともに、コンテンツ/LBE(Location Based Entertainment)市場の拡大を見込んでいます。特にポスト・パンデミックでリアル体験の需要が急回復し、可処分時間と可処分所得が“体験”へ再配分されているトレンドが追い風。NO MOREは過去のイベントで回収率90%超(会社公表値)を示し、再演・再販モデルで追加収益を積み上げています。この実績が、デット特有の返済リスクをカバーできると評価された模様です。
また、物理資産に依存しない“企画・IP”中心の事業は減価償却負担が小さく、営業CFが厚い点も銀行にとって魅力的でした。公庫がスタートアップ融資枠を活用したことで、低利・長期の条件を引き出し、資金繰りの安定性が高まっています。
スタートアップ×デットファイナンスの潮流
エクイティに偏りがちな日本のスタートアップ資金調達ですが、SaaS・コンテンツビジネスで月次CFが見えやすい企業を中心にデットの活用が増えています。調達スピードの速さ、既存株主の持株比率維持、DCFによる企業価値防衛などが主なメリットです。一方で、返済義務や財務コベナンツが経営自由度を縛るというデメリットもあります。NO MOREは案件ベースでの売上予見性と、イベント毎の仕入れ構造を分離する設計により、そのリスクを最小化しています。
- 月次黒字化後にデットで運転資金を増強
- 案件ごとにSPCを組成し、イベント終了後に一括返済
- 資産計上しないため負債比率の急上昇を回避
こうしたスキームは、クリエイティブ系スタートアップの“資金力不足”という課題を解決するモデルケースになりつつあります。
今後の注目ポイント──KPIと出口戦略
編集部が注目するKPIは「年間動員数」と「海外売上比率」です。2025年実績(予想)は動員30万人、海外売上比率15%。今回の資金投入で、2027年には動員70万人、海外比率40%を目指すといわれます。IPOやM&Aについて代表の佐田氏は「海外拠点が利益貢献した段階で選択肢を検討」とコメントしており、短期での上場より事業拡大を優先するスタンスです。
体験型エンタメ市場はグローバルで2兆円規模に拡大すると予測されており、NO MOREがどこまでシェアを伸ばせるかが勝負所。大型IPとのコラボ案件や自社オリジナルIPのライセンス展開が成功すれば、マルチプルはさらに上振れます。資金使途の進捗と銀行とのリレーション強化を追いながら、次のラウンドでの条件を見極めたいところです。
石井英治
資金調達アドバイザーとして企業・個人の資金繰りのサポートを行う。モットーは「資金調達は安全で信頼できるサービスを選べ」。業界歴25年。