日清オイリオが5年債発行を準備 A格維持で低利調達へ――棚登録枠・投資計画・ESG動向を総点検

石井英治 資金調達ニュース - ファクタリング・私募債・融資・出資 など
日清オイリオが5年債発行を準備する様子を象徴する都市の金融街の背景。金融戦略の雰囲気を伝えるシーン。

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日清オイリオが5年債発行を準備――資金調達戦略の全貌

日清オイリオグループ株式会社(証券コード2602)は、2023年10月に設定した50 0億円の国内社債棚登録枠を活用し、5年満期の円建て普通社債(以下、5年債)の次回発行を検討している。現行枠の有効期限は2025年10月1日までとされており、同社はその間に最大500億円の起債が可能だ。2023年10月には第14回無担保社債(5年・50億円)を利率0.658%で発行済みで、格付機関JCRは発行体格付「A/安定的」を付与している。JCR格付プレスリリース(2023年10月6日)

今回準備が進む新発5年債は、同棚登録枠の残高を活用し、原材料調達コストの高止まりや物流設備更新に伴う資金需要を賄う狙いがある。同社はIRニュース(2025年9月25日)で財務制約条項付き借入契約を開示しており、中期的な負債管理の高度化を進める姿勢を示した。

中期経営計画「Value Up X」と社債の位置付け

日清オイリオは2030年度をターゲットとするビジョンの下で、①高付加価値製品シフト、②海外事業拡大、③サステナビリティ対応――の三本柱を掲げる。2025~2027年度の投資総額は累計1,200億円規模を想定しており、そのうち600億円前後を設備投資に充当する計画だ。このうち、横浜磯子の研究開発・インキュベーション拠点拡充や国内生産ラインの自動化など、長期回収型のプロジェクトが多いことから、平均デュレーションの長い5年債は資金マッチングの観点で最適といえる。

また、同社は株主還元強化も並行して進め、2025年3月期から「連結総還元性向40%」と「年180円を下限配当」とのコミットメントを公表した。大型設備投資と安定配当を両立させるうえでも、低コストで固定金利の長期資金を確保する社債発行は財務戦略のキーになる。

既発社債と償還スケジュール

  • 第12回債(30 億円、2022年7月発行、2027年7月償還)
  • 第13回債(40 億円、2023年2月発行、2028年2月償還)
  • 第14回債(50 億円、2023年10月発行、2028年10月償還)

2027~2028年にかけて計120億円の社債償還が集中するが、対照的に5年債の新発は2025~26年の資金需要に対応しつつ、償還ピークを後ろ倒しする効果が見込める。IR説明資料によれば、2025年3月末時点のネットDEレシオは0.5倍と国内食品メーカーの中で保守的な水準にとどまる。借入余力を背景に、市場環境の良いタイミングで5年債を発行し、負債構成を分散する構えだ。

格付機関の評価と金利環境

JCRは2025年8月27日付で同社の長期発行体格付「A/安定的」を再確認し、安定した収益基盤と適切な財務管理を評価した。JCR格付プレスリリース(2025年8月27日)国内市場では食品セクターA格5年債の平均スプレッドが国債+20~25 bpで推移している。仮に国債利回り0.4%前後を前提とすれば、次回債の表面利率は0.60%台前半となる可能性が高い。2023年発行の第14回債と同水準で、安定調達が期待できる。

棚登録枠の概要と5年債の想定条件

  1. 枠上限:5 000 億円
  2. 有効期限:2023年10月1日~2025年10月1日
  3. 残高:4 500 億円(2025年9月現在、50億円を消化)
  4. 想定調達額:100~150 億円
  5. 償還期間:5年
  6. クーポン:固定金利0.6%台

JCRの棚登録格付資料(2023年10月2日)は「A(プレリミナリー)」で、正式発行時に再評価を受ける。条件決定にあたっては、同社の財務指標だけでなく、市場の需給環境や投資家層の広がりが反映される見通しだ。

ESG資金使途とサステナビリティ債の可能性

日清オイリオは2025年7月29日、横浜市や研究機関と水素エンジンバス実証に関する協定を締結するなど、脱炭素分野での取り組みを強化している。同社はTNFD Adopterにも登録済みで、環境関連投資への資金需要が顕在化している。こうした状況から、新発5年債をESG債(サステナビリティボンド)として組成する選択肢もある。

ESG債とする場合、第三者機関による適格性評価(セカンドオピニオン)が必要だが、調達コストを抑えつつ投資家層を拡大できるメリットが大きい。

投資家が注目すべきポイントとリスク

  • メリット:①A格の信用力、②5年の適度な期間、③安定的な配当政策との整合性
  • リスク:①原料相場の変動による収益ブレ、②海外展開の遅延、③社債償還集中に伴うリファイナンス・リスク

これらのリスクは、借入条件の柔軟化やヘッジ取引の活用など財務ガバナンスを通じて一定程度コントロール可能とみられる。ただし、物流費やエネルギーコストの急騰が長期化した場合、利払い負担と投資余力のバランスには注意が必要だ。

今後のスケジュールと市場動向

市場関係者によれば、同社は2025年度下期(10~3月)内の起債を目指して主幹事証券と協議を進めている模様だ。通常、正式発行の約1か月前に投資家向け説明会(IRミーティング)を実施し、その後ブックビルディング・条件決定へ移る流れとなる。

食品業界では、同業大手の製油メーカーも相次いで長期社債を発行しており、投資家の関心は高い。国債利回りが歴史的低水準にある間に、日清オイリオが好条件で長期資金を確保できるかが注目点となる。

記事ライター

石井英治

資金調達アドバイザーとして企業・個人の資金繰りのサポートを行う。モットーは「資金調達は安全で信頼できるサービスを選べ」。業界歴25年。
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